顧客日記【1】

銀行員を30年以上も続けていると、仕事だけでは説明できない関係が生まれることがある。

相手は、社長夫人だったり、開業医の妻だったり。

最初はもちろん、ただの顧客だった。

融資の相談を受け、何度も顔を合わせる。
少し長く目が合うようになり、仕事とは関係のない連絡が増えていく。

そして、ある夜。

いつものスーツ姿ではない彼女と、二人きりになる。

近づいたときに漂う香水。
触れそうで触れない距離。
互いに、この先に何があるのかは分かっている。

それでも、誰も言葉にはしない。

やがて境界線を越え、顧客ではなく、一人の男と女になる。

その関係から融資案件につながったこともある。

何も生まれず、ただ秘密だけが残ったこともある。

30年以上の銀行員人生。

数字や稟議書には決して残らない記憶が、私の中にはいくつもある。

少しずつ、書いてみようと思う。