銀行員を30年以上も続けていると、仕事だけでは説明できない関係が生まれることがある。
相手は、社長夫人だったり、開業医の妻だったり。
最初はもちろん、ただの顧客だった。
融資の相談を受け、何度も顔を合わせる。
少し長く目が合うようになり、仕事とは関係のない連絡が増えていく。
そして、ある夜。
いつものスーツ姿ではない彼女と、二人きりになる。
近づいたときに漂う香水。
触れそうで触れない距離。
互いに、この先に何があるのかは分かっている。
それでも、誰も言葉にはしない。
やがて境界線を越え、顧客ではなく、一人の男と女になる。
その関係から融資案件につながったこともある。
何も生まれず、ただ秘密だけが残ったこともある。
30年以上の銀行員人生。
数字や稟議書には決して残らない記憶が、私の中にはいくつもある。
少しずつ、書いてみようと思う。